ゆめのあと

 暑さのせいかテストのせいか。懐かしい夢を見た。寝ていたわけじゃないけれど。唐突な白昼夢。自分から見る白昼夢には慣れているものの、唐突に、本当に唐突に突然に無意識に、あちらから飛来してきた白昼夢は久々。
 里村はあまり小さい頃の記憶がない。両親曰く、普通は同じ家にずっと住むから、その家を媒介に記憶を持っているもので、でも里村は引越しを何度かしたせいで、古い記憶はないんじゃないか、だそうだ。
 一番古い記憶が、母親に気持ち悪いと切り捨てられたこと。
 里村には妹がいて、妹は昔、里村以外とは話が出来なくて、二人でよく遊んでいた。普通に、妹というものは守るべきものである上に、話すことができないということで更に里村のお姉ちゃんは妹を守る、という意識は強化されていって。守らなきゃ、という意識には、守ってやっている、っていう優越感もあるわけだ。
 自分の方が偉いのに。守ってあげているのに。なんで、妹の方がちやほやされるのだろう。
 そりゃあ、可愛いもの。
 妹は、可愛いもの。
 今でもにこにこと笑っている妹は可愛いのだと思う。人好きのする子だと思う。
 私が受験をするときに、院試受けようかなと私が言ったときに、なんとか金は出せるわよ、と言った母は、こうも言った。
「あんたには、これくらいしかないからね。」
 しかり。
 それを聞いた妹は、ってことは私には全く期待していないわけ私は勉強できないってこと? と不平を言っていた。
「あんたにはその笑顔があるでしょ。」
 妹は拗ね、両親は笑ったが、里村は一瞬笑えなかった。
 一瞬表情を失くしたけれど、一瞬経ったら笑えた。
 体勢を立て直すのに一瞬もかかった。
 長い長い一瞬。
 本人が聞いても傍から聞いても、単なる揶揄に聞こえるのだろうけれど。
 つまりはお姉ちゃんは優秀だけど私は駄目ってことじゃない、って妹は怒っていたけれど。
 ねえ、妹。あなたは気持ち悪いと言われたことなどなかったでしょう?
 あなたはいつも可愛らしい、って褒められていたでしょう?
 あなたは、笑顔がいいって言われたでしょう?
 勉強しかできない、と言われるのと、どちらがいい?